手紙を書いた。 出来るだけ俺らしく見えるように、俺があいつの背中を押してやれるように。 だから嘘は書かない。 偽りを書いても、きっとお前にはすぐ解ってしまうから。 いつだって、お前がよければ俺はそれで良かった。 お前の幸せを願っているのも事実。 そして、自分がいかに無力かってことも知っている。 二人でみた夢もお前に託す。 俺たちの宇宙をお前が守るのならそれでイイ。 お前が側にいない。 だから望みはもうない。 聖地から二度目の使いが来て、エルンストが聖獣の宇宙へ行ったと聞かされた。 なにか礼を言われたが覚えていない。 ただ、戻ってもよいのだと思った。 院に帰っていつも通りに振る舞ってみた。 もういないのだと解っていても、部屋に入って右の奥の窓側に自然と目がいってしまうのは、いつも厳しい顔で仕事をしているのに、 調査から帰ってきた俺を見つけたお前が、少し安堵した表情になるのが嬉しかったんだ。 それを思い出し、振り払うかのように頭を掻いた。 「ロキシーさん、今日は戻ったばかりですしお疲れでしょう?部屋に帰って休んで下さっていいですよ。」 「なんでだ?俺は全然疲れちゃいないぞ?」 そうだ、俺はいつもと何も変わっていないはずだ。 いつもなら帰って早々、調査報告書を出せとせかされて、書けているわけないそれを自分のデスクに縛られて書かされるんだ。 自分の席に向かうと、俺のデスクが少し片付いていた。そして俺はその上に置かれた手紙を見付ける。 「………本当、無理しなくてイイですから。」 「お前らに心配されることなんか、何もないんだからな。」 エルンストからの手紙。 それをポケットに突っ込んだ。 「シケたツラしてると怒られるぞ〜〜 仕事仕事。」 正直、今ここに居るのは辛かった。 院の中はどこもかしこもエルンストのことをオーバーラップさせる。 でも今逃げることはしない。 明日も明後日も、俺はここに居るのだから。 この痛みはいつ癒えるかわからないけれど。 いつもならなかなか進まない仕事も、今日は嘘みたいに片付いた。 今度の休みはどうしようかとか、どうやってアイツを笑わせようかとか、余計なことを考えなければ、俺もそこそこ優秀に仕事が できるのだと自慢したくなり、少しおかしくなった。 気付けば定時はとっくに過ぎていて、外はすっかり暗くなっていた。夜勤の奴らも少しずつやって来ているようだ。 書き上がった報告書を、俺はいつも当たり前のように直接あいつに渡していた。 「なぁ…」 帰り支度をして目の前を通っていくヤツに声をかける 「コレ、どこに出せばイイんだっけ?」 「え?報告書ですか? 特に場所は変えてませんよ、奥のキャビネットです。星系別で日付順に……」 そいつは不思議そうに俺を見ながら、なんならソレ出しときましょうか?と言ったが、いいんだ、と笑って首を振った。 「呼び止めて悪かったな〜おつかれ!」 席を立ってキャビネットの前に立つ。調査に行った星系の名を見付けて引き出しを引く。 その中の惑星の名を指ではじきながら、自分の居た惑星を捜して報告書を差し込んだ。 こんな、なんでもないことにさえ、胸が痛い。 「いよーーーし!今日の仕事終わり!!!」 キャビネットを思いっきり閉めるとバーンと音が鳴ったから、周りが驚いた顔になってこっちをみた。 「じゃあ、俺 帰るわ、また明日ナ!」 ひらひらと手を振りながら部屋を後にする。 今日はもうこれが限界だと思った。 何気なく突っ込んだズボンのポケットの奥で、アイツの手紙が指先に触れた。 |