+++オキシペタルム+++


いつも私のことを好きだと言ってくれた貴方に、今になって私は、
自分からは一度も好きだと言ったことがなかったのに気が付いたーーーー。


「それじゃ、私は聖地へ戻って、補佐官様にご報告をします。そうしたら、エルンストさんには聖地からお迎えが来ます。
まだ、少し時間がありますから・・・ご家族の元へ行って、一緒に過ごすこともできますよ」
私が守護聖になることを承諾したことで、役目が一つ無事終了したことにほっとしたのだろうか?
伝説のエトワールは少し微笑みを浮かべながら私を気遣ってくれた。
「ああ・・・ご心配なく。実は、両親と姉にはもう会って、すべてを伝えてあるのです。
親友にも・・・手紙を書きました。私は時間まで、仕事場で自分の研究を続けていますよ。
聖獣の宇宙でも、あちらの研究院と共同で引き続き進めていく所存です。」
「わかりました!それじゃ、お使いをお待ちください。」
彼女を見送ってから、再び研究院に戻り今後の引継をすることにした。
今回のことは以前から予測の立っていたことだった。
ただ、本当に聖地からの使いが来たときは、この予想データが正しかったことを少しばかり呪った。
そして、頭の中では理解していたはずだったのに、この現実から私は一度逃げた。
側に貴方が居なかった。
いろいろな手を尽くして連絡を取ろうと試みたが無駄だった。
貴方に行くなと言って欲しかったのだろうか?笑って行ってこいと言って欲しかったのだろうか?どちらでもよかった。
勅命は避けられないことだったし、守護聖の必要性は聖獣の宇宙のデータを見てきた自分が一番良く知っていたから。
ただ、会いたかった。 もう迷いはなかったが、貴方に会えずに行くことだけが心残りだった。
だから手紙を書いた。
少し散らかっていた貴方の机の上を片付けたので、手紙はすぐに気付いてもらえるでしょう。


貴方は、突然いなくなった私のことをどう思うでしょうか。



「おう!久しぶり〜〜〜〜」
「ロキシーさんっ!!」
半月ぶりに帰ってきた研究院にエルンストの姿はどこにもなかった。いや、あるはずがなかった。
「なんだよ、エルンストのヤツ、もう行っちまったのか?」
俺が研究院に戻ったのは、エルンストがいなくなってから2日後のことだった。
なんだか周りがよそよそしいのは、俺とエルンストの付き合いの長さを誰もが知っているからで、
それは同情のようでもあり、いたたまれないという心情からかもしれない。
「アイツにも驚かされるよな、守護聖様になっちまうなんて。俺も兄貴分としては鼻が高いぜ。」
「ロキシーさん、まったくどこに居たんですか?通信も取れないなんて…普通じゃ考えられませんよ!
主任…最後までずっと連絡を取ろうとしていらっしゃったんですよ。」

そんなことは解っている。通信は届かなかったんじゃない、俺が自分で切ったのだ。


 聖地からの使いが来たのは、エトワールとやらがエルンストの所に向かったのと同時だった。
こんな辺鄙な土地に、なんの一大事かと思った、そしてアイツが守護聖になるんだと聞かされて、なんてタチの悪い冗談だと思った。
「貴方に、エルンスト様宛に手紙を書いて頂きたいのです。もちろん、快く守護聖になって頂く為に。
頭のいい貴方様ならそれだけですべてご理解頂けるかと………。」           
そして気が付いた。 俺はもうお前には会えない。  
「守護聖になるのは覚悟のいることですし、なかなか決心もつきづらい、お二人は長いお付き合いですから、
貴方からの説得でしたら快くお聞きになるのではないかと思い参上したわけでございます。」 
はじめから今回のこの仕事は何かおかしいと思っていた。俺でなくてはいけないというようなモノでもなかったし、
俺があいつの側にいては、説得に都合が悪かったということか。 
「書いて頂けますか?」 
「目の付け所は正しいな。俺以外に一体誰があいつを説得できるって言うんだ?それに手紙を渡すまでアンタは帰ってくれそうもないし……
そして俺もここからは帰れそうもない。そうだろ?」  
「解って頂けたようで安堵致しました。…ですが、貴方がお帰りになるのはもう少し後になるかと思いますよ。」 



一人になってからずっと考えていた。
エルンストと交わした最後の言葉はなんだったろうか? 
いつものくだらない軽口だったか?今回の調査に出掛ける前に、俺は研究院に行ったんだった。
でも仕事の邪魔だと邪険にされて…。いつものナンでもないやり取りだった。 
ただ、今度の仕事は次に会えるのがいつになるかわからなかったから、どうしてもお前に会ってから行こうと………。

「貴方だって今から仕事なのでしょう?早くシャトルに向かわれたらいかがなんですか?」
昨日の帰院以降からのデータに目を通しながら、邪魔だと言わんばかりにエルンストは俺に言った。
「なあ、今回の仕事ってなんで俺なんだ? しかもなんか辺鄙なトコそうだし、いつまでかかるかわかんないクセになんと自炊なんだぞ?!」
「私が人選した訳ではありませんから、文句を言われても対処しかねますね。」
「デスクワークのお前はこのちょっとした辛さはわかんないよな〜〜」
このままじゃ、いつまで居座るか解らないとでも思ったのだろうか?やっとデータから視線を逸らせてこっちを見た。
「いい加減子供じゃないのですから……貴方の愚痴なら帰られてから聞いて差し上げますから…。」
「よーし!嫌と言うほど聞かせてやるから覚えておけよ! …ンじゃあ、俺はお邪魔らしいし そろそろ行って来るな!」
「ロキシー…」

ああ、そうだ。 あの時あいつは少し笑ってた。 それから

「体に気を付けて」


そう言ったんだった。



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