王立研究院の中には回廊に囲まれて中庭がある。
研究用の温室とは別に、花が植えてあり、研究員が休息するためのベンチもある。
丁度今座っているベンチの側には、青い小花が今が盛りと咲き誇っていた。
この花には覚えがある。

「研究のことしか頭にないようじゃダメだ。花の名前の一つや二つくらいは知ってないと今時女にはモテないんだぜ。」
「特にモテようとは思わないのですが……。」
そんな話をしたのはエルンストがまだ10代の頃だったか。
「たとえば、そうだなこの花。お前の髪の色と同じヤツな、ブルースターって言うんだ。宇宙バカのお前にピッタリだろ? 
でもってコイツにはさ、もう一個名前があるんだよな〜同じ花なのになんで2つも名前があるんだよって思うだろ? 
それでな、花には花言葉っつーのもあって、確かコレは……。」
「………解りましたから。自分で調べておきます。もう研究煉に戻っていいですか?」

俺はこの花が結構好きだった。
お前の髪と同じこの色のせいだろうか。
花束の中に添えられた姿も綺麗だと思うけれど、この研究院の中庭で咲いているのが一番似合っていると思う。
「俺のブルースターは聖地の花瓶に飾られちまったけどな。」
割り切ったハズなのに、どうしても恨みがましくなっちまう。
「う〜〜〜ん」
大きく伸びをしてみる。空気を一杯吸い込んだら少しいい匂いがした。
今みたいに、このベンチで仕事をさぼってたら廊下から怒られたりしたっけ。
ふと廊下を眺めると、研究員の制服とは違う赤い服が見えた。
赤い服の女の子、三つ編みだ。 俺の視線に気付いたのか目が合った。
「あっ!」
「え?」
「もしかして〜ロキシーさん……ですか?」
「そ〜だけど…」
三つ編み少女は俺の返事を聞くとそのまま中庭に入ってきた。
「初めましてロキシーさん、お会いしたいと思ってたんです。」
「こんな可愛い子に声をかけて貰えるくらい、俺って有名なのか? 」
「ふふ、噂通り 面白い方ですね。」
どうも違うらしい。 
「私、少し前までずっと研究院に通ってたんです。その間一度もお顔を見たことなかった
し、お聞きした感じが似てたから調査に出られてたロキシーさんなのかなぁって。」
「ああ、そういうことか。 -------じゃあ君がエトワール?」
「はい、エンジュって言います。」
「これは失礼したな。 初めましてエンジュ、ロキシーだ。」
俺はベンチに座るように彼女に勧めた。


聞きたいことがある。
でもすぐには口に出せなくて、彼女の話を黙って聞いている。
彼女も自分から声をかけたとはいえ、初めて会った人間に何を話していいモノかと、研究院は凄いところだ、とか
当たり障りのないことをしゃべっている。
だんだん一人だけが話しているのが気まずくなったのか、ちらりとこちらを伺う顔に覚悟を決めてやっと一言が絞り出せた。

「その…どうしてるかな」
「え?」
「あいつ……エルンスト」
「エルンスト様ですか? お元気ですよ!」
彼女は嬉しそうに答える。
そうか、もうエルンスト様なんだな。 それだけでとても遠い人に思えた。
「すごいですよね、もうお仕事とかすっごく早くって」
共通の話題を見つけたとばかりに彼女はいろいろ教えてくれた。
アイツが守護聖に就任した時のこと、初めてアイツからサクリアを拝受した時のこと。
どうして俺の知らないことをこの子が知っているんだろう?
当たり前のことなのに、それが少し悔しくて羨ましかった。
俺の手の届かないところに彼女は行けるのだ。
「あいつさ…ああ見えて結構余裕とかなくてさ、頭の中仕事とかやらなきゃいけないことで一杯になると周りが見えなくなる
っていうか…それしか見えないっていうか…。だから君さえ良ければたまに声をかけてやってくれないかな」
遠慮がちに言った言葉に彼女は微笑んだ。
「やっぱり、ロキシーさんがエルンスト様のおっしゃってた親友さんなんですね」
「え?」
「違うんですか?」
「光栄だな、俺達みたいなのはどっちかっていうと腐れ縁とかいうのかもしれないけどね。」
「あの説得のお手紙もロキシーさんでしたよね」
「本当のことを言うとね、あんなもの書きたくはなかったんだよ。でも、同じいなくなってしまうのなら
俺が背中を押してやろうってね。あの手紙に嘘は書いてないけれど、俺の気持ち的には半分が嘘で半分が本当」
アイツには内緒だよ。本当の気持ちを話して少し楽になった分、少し笑えた。
そして彼女は、あの手紙を読んだ時のエルンストの様子も教えてくれた。
俺にはそれで十分だった。
「俺はね、アイツを連れてったエトワールとやらを少し恨んだりもしたよ、でもそれは間違いだったな。君に会えてよかったよ」
「私も!聖獣の宇宙に戻ったらエルンスト様にお話ししたいな。ロキシーさんにお会いしたんですよって! 
あ、私なにか伝言があればお伝えしますよ」
「いや…伝言はないな。 俺がヘタなことを言ったらアイツが帰りたがってしまうからね。そうなったら君も困るだろ?」
「え…でも」
はは、冗談だよってうろたえる彼女に笑ってみせる。
「じゃあ--------。」
中庭の一面の青い小花。
それを少し摘み取る。
「これ、渡してもらおうかな。研究院の中庭の花だって」
「かわいいお花!でもこのままだと萎れてしまうから、私これをしおりにしてお渡ししますね。」
「ああ、それはいいな」
じゃあもう行かなくっちゃ、お話しできてよかったです。彼女はペコリと頭を下げて元の回廊を小走りに去っていった。
しおりなら側に置いてもらえそうだな。
そんなことを思って少し嬉しくなった。

お前はあの時、ちゃんとこの花のことを調べただろうか。
いやお前のことだ、きっと調べたに違いない。


ブルースター 花言葉は幸福な愛。
そしてもう一つの名前はオキシペタルム。

花言葉は 身を切る思い--------。


「俺も、仕事に戻るか」
ベンチから腰を上げて回廊側から中庭を見る。
いつもと変わらない風景。

お前はどちらの意味で受け取るんだろうな
ふと、そんなことを思いながら、俺は少女と反対側の廊下を歩いていった。



END


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エトワプレイ後に血反吐を吐きながらw書きました
自分の中で一度区切りをつけるためというか…。
初めはロキシーの泣いてるところを描きたいな〜と思って書き始めたのですが
がっつり暗いまま終わりそうでとっても怖かったです。
なんとか軌道修正?(しかも無理矢理)しました。
時間を置くと気持ちも落ち着いてきますね。勢いだけでががーーーっと吐き出した
感じだったので。ロキシーとかなりシンクロしてたかもしれません。
エンジュたんからしおりを受け取った主任が、いつも読んでいる本にこのしおりを
はさんで、そしてそれを大切に抱えていることを祈りつつ。
本当に小さな小さな繋がりだけれど。
ページを開くたびに会えたらいいな。