極上にして、最も身近。 天上の青 雨が止んだら、逢いに行くから。 そんな可笑しな言葉が零れた事を後悔すらせずに電話口ではいつものように笑ったロキシーだ。 案外ロマンティストなんですねなんて声には相手の呆れ顔も見事に想像出来た。 「…止まないな」 窓を伝う雫の内側からつつつとなぞりながら、誰にともなく呟いた。 外に視線を投げてやればつい先程までは澄んでいた青空。が、どこをどうして機嫌を悪くしたのかは知らないけれども今では水溜りだらけ。 なんて変わりやすい天気だと愚痴を零していた時にかかってきた電話であんなことを口走ってしまった自分はもしかしたら物凄く阿呆なことをしたのかも知れないと。 今更ながらの後悔なんて遅すぎて。 …さて、どうしたものか。 自分で言った言葉を思い出す。 『雨が止んだら逢いに行くから。』 外を見る。 不機嫌な空の不機嫌な色。 青と黒が混ざり合った奇妙な、でもどこか均整の取れた色にロキシーは苦笑した。 仕方なく外に背を向けて目に入る机の上は努力の甲斐あってか殆どの書類が綺麗に整頓されている。 他にあるのは冷めきったコーヒーくらいのもので。 飲む気もしなくて、だけど今する事もなくて。 はぁ。 軽くついたつもりが思ったよりも深かった溜息がひとりきりの部屋の中に響いてしまって寂しさを通り越して侘しさを感じる。 自業自得。 そう言われるのが落ちだとしても。 「…止まねぇかなぁ、雨…」 悲痛な願いは届く場所を失って少しだけ漂ったが、その内に消えた。 ぽたり。 また雫が落ちる。 大体なんで俺だけ休日出勤なんだよとか、今日に限ってどうしてアイツは休みなんだとか、根本的な事への怒りを募らせても、 結局それは自分に返ってくるのだという事を誰に言われるまでもなく気付いてしまって。 帰ったら八つ当たりしてやる…なんて恨言にも似た呟きを落としつつで。 なんとなしに出てみた廊下でも、ガラスの向こう、緑が濡れている。 さっさと止んでくれ。 かつりとガラスを指で弾いてそんな事を思いながら。 コーヒーでも淹れるか…。 冷え切ったカップを取りに戻ってまた外の雨色を見つめて溜息をつくロキシーだった。 「まっず…」 独り言も言っても仕方ないとは思っているけれども、どうもこの無音空間は嫌だ。 エルンストの淹れたコーヒーは結構美味いんだよなぁなんて言葉を落としてまた溜息をひとつ。 響きがよすぎるのも問題ではないだろうか…。 そんな文句をひとつインプットしながら、窓を見るのも嫌になってしまってふと流した視線の端に電話機。 …かけてみっか…? 咄嗟の思い付きを実行に移そうとして。 受話器にまで、手が伸びて。 …いや、しかしそれもなぁ…。 自分で勝手に約束したのだ。 『雨が止んだら』と。 電話位なら良いかとも思ってしまうが、何かが引っかかって結局出来ず終い。 俺って結構優柔不断だったんだー…なんて呟き誰も聞いていなければ侘しいだけで。 残ってる書類も片付けちまうかと机に向かおうとして。 音を聞く。 ぽたり。 滴が落ちる音。 ふと見た空は何よりも青い。 何処か、見覚えのある色だった。 ***** 「あー……よく晴れたなっと」 日差しが痛いほどに。 雨上がりの空はこんな色だったかと目を細めて見上げた先の、先刻と同じ何処か見た色。 何処で。 考えるのは一瞬で済んだ。 ぽたり。 街路樹に雫が落ちる。緑が透けた。 と。 唐突に響き渡った電子音。 やっぱり、響きが良すぎやしないか。そんな事を思って。 口の端には笑みが上った。 「はい、ロキシー……ああ、何。仕事なら終わったぞ?」 真っ先に仕事のことを聞いてくるこの声に思わず笑みが音となって零れ落ちた。 腑に落ちない、と言うような吐息が微かに聞こえる。 「いや、何でも…ん。あ、エルンスト」 空は晴れている。 雲の切れてきた、青空。 見覚えのある、その色。 「お前、空みたいだな」 は? なんとも間抜けな返答に笑って返した。 分からなくて結構。 その言葉は告げずに。 「じゃぁあ、約束どおり、雨が止んだので逢いに行くとしますかねェ〜」 雨が止んだら。 君に逢いに行こう。 空は快晴。 君の、色。 ----------------------- えーと…青と言う色から連想されるのです。主任が。 で、雨上がりの空は実はとても青いのですよ。と言うことを先日発見しました。 ので、記念(?)に。 ロキエル。 誰がなんと言おうとロキエル!!
|