シアワセと言うか、日常と言うか。 たったそれだけの話 「オイオイ…」 「───……」 健やかな寝息。 いつもは、聞かなきゃ安心出来ないそれ。 「エルンスト」 応答なし。 「…エルンスト」 耳元で囁いてやる。 いつもやめて下さいと言われるような、そんな声色で。ゆっくりと、一字一字。 すー………。 がくり。 そんな音と共に俺の頭が潔い程に落とされた。 …先刻。ほんの数十分前には、電話をしていたはずなのに、どうしてここまで熟睡できるのだろう。 すぐ目の前のこの整った顔はぴくりとも動かない。 色素の薄い肌、意外に長い睫毛。 そんなところばかり見ているわけでは決してないのだけれども、ついつい視線が行ってしまうのは何故だろう。 「美人さァん?」 冗談めかして。聞こえないと知っているから。 言ったあとに、ははと声をあげて笑った。 実際、エルンストは綺麗だ。 それは揺るぎ無い事実。 整った顔立ち、まっすぐに伸びた背筋。 気付かれてはいないけれども、多分、守護聖様と並べても違和感は無いだろうという程。 まぁ、それは少し言い過ぎかも知れんが。 守護聖様方とでは比べる対象が全く違ってしまうし。 …まぁ、それはどうでも良いんだ。 とにかく。 コイツはキレイだ。 そう思うのは多分俺だけじゃない。 がしがしと頭を掻いて、顔を覗き込んでみる。 一定の呼吸音。微かに震える空気。 それには気づかない素振りで。 「あー…なんだ。あの仕事量であの休憩量。疲れてるのは分かるけどな。だからってこんな無防備に寝るかあ?」 しかも俺の目の前で。 そんな言葉が喉まで出掛かって、何とか堪えた。 かけた声はささやかなもので、当然の帰結として返事は勿論ない。 だらり。長い腕が落ちている。 …らしくない。 全くもって、らしくない。 俺は溜息をついて向かい側のソファに腰を下ろした。 空に似た薄い髪を見下ろす。 何故だろう。 思い出した、コイツが来た頃。 なんだかは忘れたが、下らない言葉にムキになって反論してくる自分よりも年下の…年下の癖に人間らしくなかったエルンストに構うのがやけに楽しくて。 言葉を交わせば喧嘩染みた口論。 最初は擦れ違うだけでも嫌がっていたのになぁ。 そんな事を、ふと。思い出した。 変わらない奴だ。 さらりと、髪に触れたその時、不意に形の良い唇が動いた。 思わず、視線が奪われる。 笑った。 「……幸せそうな顔、しやがって」 こんな顔、知らない。 誰にも知られないところでなら、やわらかに笑む。 「誰の夢、見てんだか」 呟きが自分への皮肉にも思えて、思わず苦い笑が浮かぶ。 「───……起きるなよ?」 今更起きるわけ無いと知っていても、つい。言ってしまう。 人形のように整った、生命感の薄い顔に近づけた。 吐息が触れて。 絡んだのは、一瞬。 唇を落としたのも、一瞬。 触れるだけの、挨拶にも似た、遊びみたいな口付け。 しんとした夕闇。 そして、自分の気持ちだけ自覚する。 起きろよ。 起きろよ、エルンスト。 何事も無かったように、ああ眠っていたのですかと悪びれもせずに呟いて、至近距離にいる自分を見つけて、何をしているのだと問うて。 そして自分は何でもないと笑顔で返して。 そういう幸せだって、あるだろう? そんな、話。 ---------------- …ヌルイ続きだ(死) すみません、やはり意味不明(苦笑)エルンストさんが思うように動いてくれなくて…寝てしまいました(渇笑) 微妙なセクハラがありますが(死)お気になさらず…。 こんなのですが、捧げます。
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