-+-カザハナ-+-



  降り立った白き極光の惑星は快晴で、以前来たときより寒さが和らいでいるようだった。
そのまま真っ直ぐ細雪の街の研究院へ向かう。
皇帝との戦いが終わってから数日後、陛下から数日の休みを賜った私は細雪の街へ向かうことにした。
そこにはまだ貴方がいると聞いたから。

 先の戦いが終着してからも事後処理に追われ、貴方に連絡をし会話を交わすことがなかった。
貴方もすでに主星に戻っていると思いこんでいたのだったが、細雪の街の研究院からの連絡の
折りに、貴方が未だかの惑星に滞在し、医師に検査を受けていると聞いたのだった。
数日であれ石化された状態だったのだし、偽守護聖と対峙したあの後も大丈夫だと貴方は笑っていたけれど、
きっと無理をしていたのだろうと、あの時貴方を気遣う考えが及ばなかった自分を愚かに思った。


「主任?!どうされたんですか?こちらでなにか重大な不備でもありましたか?!」
連絡もいれずに来てしまったものだから、研究員には勘違いをさせてしまったようだった。
「いえ…そういう訳では…。先日は貴方方にもいろいろと迷惑をかけてしまいましたし、その……。」
「いえ、我々も主任や守護聖様方のお役に立てたと思うと誇らしい限りです。
って…うわ!まさかその為にまたいらして下さったのですか?!感激ですっ!」
「はぁ……それでその諸悪の根元はどこに…」
感慨しきりの研究員の向こうに目線を向けて聞いてみる。
「諸悪の…? ああ、ロキシーさんですか?」
「お前ら…人がいないと思って好き放題言いやがって」
いつからそこにいたのか、少しあきれた顔のロキシーが壁にもたれて立っていた。
「あ、ロキシー、いらっしゃったんですか」
「ああ、いたいた。お前は今来たトコか?」
「は、はい」
いつもと変わらないロキシーの姿に自分で自分が安堵の表情を浮かべたのが解った。
それが気付かれたのではないかと気恥ずかしかったのだけれど、当の本人が気付いていない
ようだったのでほっと胸をなで下ろした。
「なぁ、主任殿がお疲れでないようならちょっと付き合わないか?」
反対にそんな私の顔を不思議そうにロキシーが声をかけてきた。
「ええ、構いませんけど、どちらへ」
「うん、折角だからちょっと花見♪」



 白き極光の惑星はオーロラ観光で有名な惑星ではあったが、花見まで出来るとは聞いたことがなかった。
けれど風花の街に連れてこられたことでようやく納得がいった。
「こんな季節に花見だなんておかしいと思ったのですよ。」
「なんで?」
「もう雪は降らないとは言っても、まだ花見をするような季節ではありませんからね。
風花の研究員が新種でも咲かせたのですか?」
「そんな花なんか見たって面白くないじゃん。お前はまだまだ考えが甘いな〜」
そう言って貴方はいつものように笑う。

風は冷たいけれど、日差しが暖かい。
先を歩いていく貴方のコートが風をはらんでいる。
貴方がそこにいる----。
いつも側にいてくれるのが当たり前だったから、こんななんでもないことが嬉しい。
細雪の研究院で貴方に再会してから、本当はもっと言いたいことがたくさんあったのに
今は貴方の後ろを歩いていられるだけでイイと思える。
「この辺がいいかな〜」
そう言って連れてこられた場所はなにもないただの丘で、花見をするような木はおろか
小さな花すら咲いていなかった。
「ここ…ですか?」
「そ。ちょっと待たないとダメかな〜寒いか?」
少し苦笑いをした貴方が振り返る。
「いえ、私は大丈夫です。それより貴方の方が体…」
「俺は平気。本当になんともないのに医者のやつが『人体が石化されるなどというコトは
今まで事例がありませんので。』とかなんとか言いやがってそっちに帰してくれないだけでさ、
安静どころか毎日検査に次ぐ検査でうんざりだぜ。ありゃまだ当分解放してくれそうにないな、
あれってちょっとした人体実験に近いぜ。まったく俺の人権を返せー!」
口をとがらせながら愚痴るロキシーを見て安心した。
これだけロキシーが軽口をたたくということは、体のことはまず心配しなくていいのだろう。
「春になったら帰してやるとかなんとかさ〜でも、まあ…ちょっとだけ医者に礼を言ってやってもいいかな。うん。」
さっきあれだけ悪口を言っていたのにですか?と問うと
「だって、研究院に来て俺の顔見た時のお前の顔っていったら…突然やって来てあんな顔するなんてこっちは
思ってなかったからさ、さすがの俺もびっくりしたな。ホント反則だぜ。」
ロキシーが破顔して言う。
やっぱり気付かれていたのだと知って、自分の顔が赤くなっていくのがイヤでもわかった。
「あれからお前が俺のこと、どんなに探してたか聞いたよ。研究院の仕事も投げ出して血相変えて探してたってな。
ソレ聞いてさ、そんな訳ねーだろって…いやそうだったら嬉しかったけどさ。
俺の石化が解かれた後もアンジェリークが倒れたりとかでお前とちゃんと話出来なかったし、だから人から
そんな話を聞いた時は真面目な主任様が錯乱なんて尾ひれの付いた話だろうって話半分だと思ってたんだけど……」
「じゃあそのまま話半分に思っていて下さいっ」
本当はなかなか主星に戻ってこない貴方が心配で柄にもなくこんなところまで来てしまったのだと、
いつもなら言えないようなことが今なら言えるのではないかと思っていたのだけれど……
そんな話を聞かされて、それに見るからに嬉しそうな顔をして話す本人を前にすると、結局何も言えなくなってしまった。
「俺は今日から尾ひれのついた分も全部本当だと思うことにした!」
なにやら確信めいた表情でそう宣言したロキシーがどんな話を伝え聞いたのか幾分不安になってきた。
「って、一体なにを聞かされたんですか?!」
「いやなに、俺ってとーーーーっても愛されてたんだなぁ〜て感じの話だな、うん。」
私は自分のこんな気持ちを伝えるのが気恥ずかしくていつも言葉にすることが出来ない。
人と関わることが苦手だった私が、今まで考えたこともないようなこの想いを。
だから時々、思っていることをストレートに告げられる貴方が羨ましくて。


突然、ザッ…と、私の気持ちを払うかのような風が吹いたかと思うとロキシーの顔が
いつものわくわくするような顔になった。
「エルンスト、ほら。」
真っ青な空からひらひらと風に舞い散る櫻の花びらのように淡い雪が降っては消えていった。
「綺麗だろ?」
風が吹くたびにゆっくりと舞い散るソレは本当に花吹雪のようだった。
「風花だよ。雪の残る山肌を撫でて風に吹かれ飛んでくるんだ。ここ、風花の街だろ。
俺、検査の時以外はヒマだからさ、一度見てみたいと思ってこの場所見つけたんだよ。
春になる前の丁度今時分のさ、こんな晴れた日にしか見れないんだぜ。」
お前は本当にラッキーだな。ロキシーは満足そうな笑みを浮かべてウンウンと頷いた。
「初めて見ました。雪なのに晴れた日にしか見られないんですか。」
「だな。」
しばらく二人で青空の下、儚く消えていく風花を見ていた。
「ロキシー」
「うん?」
「先日仕事で些細なミスをしてしまったんです。」
「うん。」
「あることが気になってしまって」
「うん。」
「ロキシー、貴方が側にいないと寂しいです。」
「うん。 ………って え?」
ロキシーが驚いた顔で私を見る。
平静を装って告げたつもりだったが顔が熱い。
「信じられないものを見るような顔はやめて下さい。」
「いや…うん。」
「ですから…貴方が早く帰ってきてくれないと困ります。」
「うん。」
そう返事をしたまま、ロキシーはしばらく目を閉じて黙り込んでしまった。
期待していた訳ではなかったが、貴方のことだからもう少しリアクションが
あるのではないかと思っていただけに、少し拍子抜けをした感じだった。
「あの……。」
「聞いてる、っていうかもうちょっと待て。今、幸せをかみしめてるんだ。」
「は?」
そしてさっきよりぎゅっと目を堅く閉じた後、
「なぁ…お前って もしかして尾ひれの付いた話以上だったのか?」
と真面目な顔で聞いてきた。


風花は白くて綺麗で淡く、そして潔い。
冷たいだけの雪が花のように美しく舞えるのは、それを遠くに連れて行ってくれる
風と青空が側にあるからだと思う。

なぁ、もう一回言ってくれないか?
側で貴方が囁いた。

春になれば貴方が帰ってくる。
そしていつもと変わらない穏やかな日常が戻ってくる。
いつしか雪は舞い散るのをやめ、青空に暖かな風がやさしく通り過ぎていった。



主任目線でっていうのは初めて書きました(^^;) む、難しかったです。4周年記念のイラストとペアというか、
この話の方が先だったんですけどなかなか書けなかったので2月頭に合わせてイラストの方のUPが早く
なってしまいました。
そんな訳で、イラストの方は寒そうな仕上げになってるんですが、本当は快晴なんです。
快晴版をココに載せようと思ったんですが、仕上げまでしたVerしか見当たらない…。
ノートに残ってるかな?
久々にラブラブな2人を書けて楽しかったです。本当はもっと悪ふざけしたかったけど、
主任がまだ若すぎて(何?)出来ませんでした。(わっはっは)兄貴スマンでし〜@